サン都市計画社長・森口公晴のブログ

10年間の世界経済を振り返える時

この10年間の世界経済を振り返ってみますと、各国とも企業利益の追求に焦点を当てすぎたために、「労働生産性向上」という御旗の下、経費節減のしわ寄せが人件費に向かい、人員カットや給与削減等によって労働分配率は低下してしまいました。企業経営者や各国政策当局の考え方は、労働生産性を高めることによって生じた企業利益が再投資されることによって雇用機会が増え、結果的に人件費=所得の拡大に向かうというストーリーを描いていましたが、全く逆の結果になってしまいました。

各国ともGDPに対する労働分配率の低下によって国内の消費需要は低迷し、企業利益の再投資先は海外に向かいました。しかし、新興国バブル崩壊とともに世界的な需要は頭打ちであり、行き場を失ったマネーは投機資金となりインフレを助長している状況です。このままではスタグフレーション(=インフレと失業)が蔓延し、信用不安から世界恐慌へと突入するリスクがあります。

企業利益は法人税の源泉であり、人件費は給与所得として所得税・住民税、社会保険の源泉です。企業利益と人件費はともに納税原資です。さらに経済成長の源泉でもあります。しかし、現行の会計基準や税制の下では企業利益と人件費は二律背反の関係にあります。一方を増やそうとすれば、一方が減るといった関係です。人件費が一般管理費の一勘定科目、つまり光熱費などと同等に位置づけられているからです。経済成長と給与所得増を同時に達成するためには、これまでは新市場の開拓(新興国、イノベーション、戦争等)かバブルを引き起こす以外に方法はあり得ませんでした。

現在の世界経済を例えれば、各国とも成長と雇用・所得の増大というゴールを右前方に見据えつつ、自ら右折禁止のルールを設定して疾走している様なもので、国債発行や量的緩和という誘惑に駆られて左折した国ほど戻るのにより多くの努力を強いられている状況です。

世界経済が現在が陥っている罠から脱出する方法としては、国際的な会計基準と税制度の抜本的な見直しが求められます。具体的には人件費を一般管理費の一勘定科目から税引前純利益からの控除項目に移し替え、その一部をさらに法人税額控除の対象とすることです。雇用や給与支出増に応じて法人税が節減され、税引後の純利益に反映する仕組みです。各国政策当局はこれ以上の量的緩和をしても世界的なインフレを助長するだけで問題解決にはなりません。労働の価値を見直し、雇用・所得を増加させることがスタグフレーションを沈静化し、内需主導の経済成長を達成し、財政健全化への唯一の道筋だと思います。
2011.10.5