サン都市計画社長・森口公晴のブログ

「労働生産性」という名の罠

リーマンショック以降3年間、経済成長を達成するために世界中の政策当局が量的緩和と債券発行による総需要喚起政策を継続した結果、スタグフレーション(インフレと失業、但し日本は円高によりインフレは表面化せず)が現実のものとなりつつあります。
今後、さらなる量的緩和や公共投資によって経済成長を目指すべきか、公的金利の引き上げや緊縮財政によってインフレ沈静化をはかるべきか・・・・世界は今岐路に立たされています。
そもそも経済成長(=GDPの上昇)とは本当に必要なものでしょうか。
経済成長すると本当に失業率は下がり、賃金は上昇するのでしょうか。
エコノミストの方々はよく
A「規制緩和やグローバル化が進展する世界中にあって、労働者の実質賃金を上げていくためには経済成長政策によって労働生産性を引き上げていく必要がある。」
とおっしゃいます。
本日の日経新聞朝刊1面で「OECDのまとめでは(日本の)労働者1人が1時間働いて生み出す日本の国内総生産(GDP)は38ドルで米国やドイツと比べると約3割低い。ホワイトカラーの生産性をどう高めるかが長年の課題だった。・・・1人当たりの労働時間を年50時間減らすのが当初の目標・・・」という記事が載っていました。
至極もっともに聞こえますが、GDPが一定の元で労働生産性を上げるためには労働分配率を下げるしか手段がありません。その結果は失業率の上昇と賃金の下落に跳ね返ります。日本の雇用者報酬は1997年の280兆円をピークに下がり続けて現在260兆円を割る状況です。日米とも法人企業の労働分配率は2001年頃より10年間下がり続けています。先進各国は一方で失業者を増やさないためにこの3年間量的緩和・財政拡大政策によって経済成長を目指してきましたがうまくいきませんでした。
各国とも経済成長を達成するための内需が賃金の低下や逼迫財政によって期待できないとなれば、今後も外需に頼らざるお得ません。しかし外需といっても限界があります。貿易競争が激化すれば製品価格は下落しますし、新興国を中心とした外需は早晩頭打ちとなります。

上記Aのコメントは1企業単位では当てはまっても、国家単位、世界基準では異なった価値観が必要だとおもいます。まず済成長ありきの論理ではなく、「労働分配率を高めることによって内需を暖め結果的に経済成長に繋げる仕組み」を世界全体で考える必要があります。
「雇用・ワーキング」の価値を「環境・エコ」と同格のテーマとして位置づける必要があります。
国際会計基準を見直し、「人件費」を一般管理費の一勘定科目のみならず、特別項目として扱います。
法人税減税の一環として人件費の一部を人頭割で法人税の税額控除の対象にします。(雇用促進に繋がります。人件費・給料が増えれば結果的に所得・住民税、各種保険の税源となります。)方法は色々とあると思いますが、各国政策当局の方々にはぜひ早急に考えて頂きたいテーマだと思います。
2011.8.23